民事保全①「仮差押えを活用せよ!」
民事保全①「仮差押えを活用せよ!」
このコラムでは、このような事を説明しています。
・仮差押えの意義
・具体的な仮差押えを活用できる場面
・仮差押えの要件と担保提供
・何を仮差押えできるのか(仮差押えの対象)
◎仮差押え
○仮差押えとは
仮差押えとは、債権者が債務者に対して金銭債権を有し、強制執行のために判決などの債務名義を得ようとするときに、訴訟を提起されたことを知った債務者がその責任財産の隠匿したりして債権者による将来の強制執行を妨害することがないよう、あらかじめ債務者に対して責任財産の処分や現状変更を禁止しておくものです(民保法20条)。
仮差押えを活用すれば、より確実な債権回収することが期待できたり、有利に交渉を進めることができたりします。
仮差押えをする際の注意点は、仮差押えはまず先にするということです。通知よりも先に、仮差押えはするべきです。仮差押えを察知されると、財産を隠される可能性があり、仮差押えを実効的にすることができなくなるためです。
○仮差押えを活用できる場面
・倒産リスクのある取引先から売掛金を回収したい場合
赤字決算が続く下請け企業に対し、期限どおりに売掛金が支払われるか心配ですよね?また、支払期限を過ぎても支払が遅れている取引先に対しても、本当に売掛金が支払われるか不安がありますよね?
このように、倒産リスクのある取引先から売掛金を回収できていない場合、取引先が倒産してしまうと、売掛金を回収が困難になります。
ここで、仮差押えを行えば、売掛金の回収を確実化することができます。また、相手企業は差押えを受けると資金繰りが厳しくなるので、和解に応じやすくなるという効果もあります。
・取引先からの納品に契約不適合があり損害賠償請求をできるだけ確実にしたい場合
納品された部品に重大な欠陥があり、損害が発生した場合、システム開発委託先での開発に大幅な遅延があり、損害が発生した場合を考えてみましょう。このような場合、相手企業に対し、損害賠償請求をすることができます。
しかし、いくら訴訟で勝って損害賠償請求が認められても、相手企業が他の企業ともトラブルになっていて相手企業に既に資力がなかったり、賠償を避けるため財産を隠匿していて財産を見つけることができなかったりすることがあります。勝訴していても相手企業の財産を見つけることができなければ、実際には賠償を受けることができません。
ここで、仮差押えを行えば、賠償を確実に受けることができます。また、仮差押えをすることは、訴訟を辞さないという意思の表明になり、訴訟の結果によっては確実に資産を失うことになるため、相手企業にとってみれば、喉元にナイフを突きつけられているようなものです。また、訴訟は時間が掛かることも多く、時間稼ぎの方法としても有効です。
・取引先の「事業譲渡・M&A」直前の債権確保
提携先企業が、突然株式譲渡・事業譲渡を発表し、企業の負債部分だけが切り離され、価値の低い事業だけが相手企業に残ることになると、債権回収が見込めなくなるおそれがあります。また、M&Aのために、債務整理・訴訟リスク遮断を図る兆候を見せている場合も同様に、債権回収が見込めなくなるおそれがありますね。
ここで、仮差押えを行えば、M&Aの手続きが止まり、現在有している債権を確実に回収することができます。また、そのままでは買収契約を締結できないので、債権者と交渉を図ろうという動機づけにもなり、早期解決に繋がります。
◎仮差押えの要件と担保提供
仮差押えの要件は、①被保全権利の存在及び②保全の必要性です。
また、裁判所に保全を命令してもらうには、担保の提供も必要となります。
○被保全権利の存在
仮差押えをするためには、債権者が債務者に対し債権を有することが必要です。これが①被保全権利の存在です。
この債権は、民事訴訟手続で訴求することができる金銭債権ある必要があります。民事訴訟手続で遡及できない金銭債権については、仮差押えによって保全することはできませんが、特殊保全手続によっては保全が可能な場合があります。
○保全の必要性
そして、②保全の必要性について、仮差押えの場合には、「強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき(民保法20条)」に認められます。
これは、債務者が財産の処分をすることが見込まれ、資力を失うおそれがあったり、債務者が財産を隠匿したりして、将来の執行を事実上困難にさせるおそれがある場合のことを指しています。上記の「仮差押えを活用できる場面」で述べたような、交渉を有利に進める目的があることによって、「保全の必要性」があるということはできませんので注意してください。
○担保の提供
保全命令の担保は、違法・不当な保全処分の執行によって債務者が被るであろう損害を担保するものです。
担保額は裁判所の裁量によって決定されます。
担保の提供機期間は、保全処分の執行期間が債権者への保全命令送達日から2週間とされている趣旨から、裁判所の裁量により、3日から7日と定められることが多いです。
◎仮差押えの対象
債務者が所有している不動産・債権・動産を差押えすることができます。
もっとも、差押禁止財産(民保法49条4項、50条5項、民執法131条、152条など)を差押えすることはできません。
動産は換価が困難であることもあって、動産に対する仮差押えはあまりされていないようです。