特商法コラム(通信販売)
特商法コラム(通信販売)
特定商取引に関する法律
1 はじめに
近年、特定商取引法(以下「特商法」)違反の行政処分・措置命令の多くが、通信販売(通販)分野に集中しています。特に、「定期購入であることを隠した広告」や「解約させない仕組み(ダークパターン)」が社会問題化し、消費者庁による摘発・指導が急増しています。
通販は、訪問販売などと異なり勧誘行為の規制が比較的緩やかですが、
広告表示と解約条件の明確化については極めて厳格な規制が求められています。
本コラムでは、通販事業者に特化して、最新の行政処分事例に基づく違反パターン・改正のポイント・実務で取るべき対応をまとめます。
2 通販分野で違反が急増している背景
①定期購入ビジネスの拡大
健康食品・美容商品を中心に、初回割引や「お試し価格」で販売するスタイルが一般化する中で、定期縛り(最低◯回購入)を明示しない広告が問題化しています。
②SNS広告・LPの多様化
Instagram・TikTok・Xなどで広告が容易に発信できるようになり、
誤認されやすいキャッチコピーや不適切表示が増加。
③解約導線をわざと分かりにくくするUI(ダークパターン)
・解約フォームが隠れている
・電話解約に誘導される
・マイページに「解約」ボタンが存在しない
などの手法が横行し、ユーザーの苦情が急増しています。
④消費者庁が「通販」を重点監視対象としたこと
消費者庁・各地方自治体の執行体制が強化され、措置命令・業務停止命令の件数が増加。
特に「定期購入の誤認表示」は最重要監視項目です。
3行政処分事例からみる通販分野の典型的な違反パターン
パターン①単品購入に見せかける広告(ステルス定期購入)
- 典型例
・LPの最上部には「初回980円!」と強調しているものの、ページの下部や最終画面に小さく「定期購入」と記載がある場合
・「解約は次回発送日の◯日前まで」と小さく表示している場合
- 処分の理由
「購入者が定期購入だと認識できない」構造が、「広告表示義務違反」に該当。
パターン②初回無料・実質無料と見せかける誤認表示
- 典型例
「初回無料」「送料のみ」と表示しているが、実際は「◯回受け取り必須」
総額が数万円に及ぶケース
これは景表法(優良誤認・有利誤認)と重複して処分されることも多いです。
パターン③解約を妨害するUI・導線(ダークパターン)
- 典型例
解約フォームが存在しない/見つけられない
「電話のみ受付」だがつながらない
マイページ内で解約の文字が極端に小さい
解約ページへ行くまでに大量のアンケートを要求
- 処分の理由
2022年以降、特商法上「解約妨害となる仕組み=不当行為」と位置付けが明確化され、摘発増加
4 通販事業者が取るべき「実務対応」5選
①LP・広告の冒頭に「定期購入である旨」を明示する
最上部(ファーストビュー)に「この商品は定期購入です」「最低◯回の継続が必要です」を明記
文字の大きさ・色・位置は申込ボタンと同等以上が原則
途中で条件を隠さない(スクロールしないと見えない表示はNG)
②購入最終画面に「支払総額」「契約期間」を明示
初回価格だけでなく「総額(◯回分)」を必須表示
解約可能時期/次回発送日
最低契約回数
自動更新の有無
→最終確認画面での明示が必須。
③解約導線を2クリック以内で到達できるようにする
マイページ→解約ページ(1〜2クリック)
電話のみ受付は原則NG
不必要なアンケートを課すことは避ける
解約後は即日または翌営業日以内にメールで通知
④広告チェック体制を社内に構築す
広告出稿前に法務チェック
インフルエンサー投稿内容の事前確認
医薬品的な効果表現(薬機法)との二重違反にも注意
過去の行政処分事例を定期的にチェック
⑤外部専門家との年間契約も有効
景表法・薬機法を含めた広告審査
LP・ステマ規制対応
新規商品のローンチ前審査
通販事業では、法令遵守がそのまま「事業存続」に直結するため、外部の専門家チェックを定期的に入れることが効果的です。
5 まとめ
通販事業者は広告と解約こそが最大のリスクポイント
通販・ECは、他業態より規制が緩いと思われがちですが、実際には「広告表示」と「定期購入の明示」、そして「解約手続の設計」について極めて厳格な法規制があります。
特に2020年代に入り、通販事業は特商法違反の最大の摘発分野となっており、中小企業でも措置命令の対象となる例が多数生じています。
・定期購入であることを目立つ形で明示
・契約期間・総支払額の明確化
・解約しやすいUIの実装
・誇大広告の排除
・社内ガイドラインの整備
これらを徹底することが、通販事業の持続的な発展につながります